ご縁あって編集させていただいた以下の本が、うれしいことに、2023年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞を受賞した。ご執筆者は、菅谷齊(すがや・ひとし)氏。記者として日本プロ野球を50年以上にわたって取材してきた、生き字引のような方だ。その数多の取材の集大成として、本書は刊行された。
『日本プロ野球の歴史 ―激動の時代を乗り越えて―』
著・菅谷 齊/発行・大修館書店
ミズノスポーツライター賞は主にノンフィクション作品が対象になる賞だが、今回のような長大な歴史を扱った書籍が受賞するのはやや異例になるようだった。なおさらうれしい。
HPでのご報告がずいぶん遅くなってしまったが、菅谷さまやタッグを組ませていただいた大修館書店のKさまはじめ、ご関係者のみなさま、このような貴重な本に微力ながら関わらせていただいて本当にありがとうございました。
手触りのある歴史書
B5判で400ページを超える大著。初めて原稿を拝読したとき、記者らしくも軽妙な「語り」の端々から、その時代の熱と匂いと手触りが感じられた。これは歴史という客観的事実の裏に隠れた見えないものまですくい上げようとしているのだと思った。そこで、「歴史書だから」という先入観を捨て、この勢いのようなものが可能な限り生きるように編集していった。
読み物としての体裁にもこだわった。小口側に余白をとることで、大ボリュームゆえの圧迫感をなくすとともに、写真などのビジュアルを効果的に配置できるようにした。勢いを感じながらページをめくることのできる本文組になったのではないかと思う。
野球の息遣いを感じさせるデザイン
上記の本文組のことも含めて、デザイナーのイトウコウヘイ氏(合同会社デザイン経営)の力を多分に借りた。デザインとアートの間を自在に行き来するイトウ氏は、学生時代からの親友であり、今もフィールドに立つ根っからの野球人でもある。
イトウコウヘイ
http://koheiito.com/
https://koheiito.art/
※上がデザイン、下がアート
合同会社デザイン経営
https://designkeiei.llc/
本書のデザインには、現場に立つ野球人ならではの感性が随所に表現されている。
カバーの用紙は、どことなく白球の手触りを思わせるハンマートーンを採用。そこにエンボス加工と特色赤で縫い目を模すことで、野球ボールを具現化した。カバーに隠れた表紙と見返しは、フィールドの土と芝を思わせる茶と緑だ。
また本文にも、ノンブルを背番号フォントにするなど、いくつかの部分で野球のモチーフを取り入れている。
こうして、「手触りのある歴史書」が形になった。
かくいう自分は恥ずかしながら生で野球を観る機会に恵まれず、先日イトウ氏に連れられて、学生時代の早慶戦から20年ぶりくらいに神宮球場の席に座った。開幕戦、ナイター。お祭りのような解放感と一体感。熱気と夜風、都心らしからぬ空の広さ。ビールがおいしい。あっという間の4時間。
日本のプロ野球は、これからも時代の要請に応えて強かに生き抜いていくのだろう。その歴史の最前線にいる今、一寸先もわからないこの状況に一喜一憂できることは、とても幸せなことなのかもしれないとあらためて思ったりもした。